2024年8月8日木曜日

dbx 286s 備忘録

dbx 286s 、安価でお手軽なチャンネルストリップですが、私にとっては結構「曲者」な機材であります
その曲者かげん、ちょっと記録しておかないと忘れてしまいそうなので(笑)



さて、チャンネルストリップとは何かというと・・・
大型のミキシングコンソールや卓上のミキサーにおいて1チャンネル分の機能を抜き出してひとまとめにした機材(またはプラグイン)のことを言います
ここでいう「1チャンネル分の機能」というのは機材によりいろいろではありますが、ごく一般的には、プリアンプ、コンプレッサー、EQ、+αといったところでしょうか
もちろんプリアンプやコンプレッサーに特化した機材に比べると劣る部分はありますが、1台で必要な処理を完結できると言こことでは、とても便利な機材といえます

dbx 286s は6つのセクションから構成されているので、順に見ていきましょう
 ・マイクプリアンプ
 ・コンプレッサー
 ・ディエッサー
 ・エンハンサー
 ・エキスパンダー/ゲート
 ・アウトプット


マイクプリアンプ
入力ソースの増幅を行うセクションで、+60dBと十分な利得を持ちます
ファンタム電源のオンオフ、ハイパス(ローカット)のオンオフもこのセクションで行います
きわめて普通に機能するセクションですが、問題はコンプレッサーとの関連性にありますので下の「コンプレッサー」の項をご参照願います


問題というわけではなく仕様の話ですが、入力ソースについては少し注意が必要です
入力はMIC INPUTまたはLINE INPUTの端子を用いますが、このとき以下に注意!

 ■MIC INPUT:ダイナミック、コンデンサーともにOK、ただしコンボジャックでは
    ないので、ケーブルがXLR-フォンの場合は変換アダプターが必要
 ■LINE INPUT:キーボード等のラインレベル機材を接続、マイク入力には対応していない
    マイクも音は出ると思われるが、十分なゲインが得られない可能性が高い
    また、エレキも挿すことは可能と思われるが、この端子のインピーダンスは、
    アンバランス30kΩ、バランス60kΩなので、一般にインピ-ダンスが200kΩ以上
    あるエレキ(パッシブ)とはインピーダンスが不整合となる可能性が高く、
    前段にDI等を入れて整合を図る必要があると思われる



コンプレッサー
最も「曲者」感が強いセクションです
一般的なコンプレッサーのように、スレッショルド(Threshold)、レシオ(Ratio)、 アタックタイム(Attack Time)、リリースタイム(Release Time)、メイクアップゲイン(Makeup Gain)といったパラメータを設定するのではなく、小型のアナログミキサーで見かける「ワンノブコンプ」のような働きをします
確かにお手軽コンプではあるのですが、「内部処理がどうなってるのかわからない」ので効き具合は耳で確かめながらになります
さて、何が問題かというとそれは、自動的に決定される「メイクアップゲイン」です
このセクションではコンプの効き具合を「DRIVE」、リリースタイムを「DENSITY」という2つのノブを使用します
DRIVEを右に回すとともにコンプの効きが強くなりますが、この時コンプによって下がった音量を元に戻すメイクアップゲインが自動で付加されます


このメイクアップゲインは、つまみが5の位置でmax20dBとかなり過激で、そうと知らずに回しすぎると、「やたらノイズ(環境的な)が増えるな」ってことになります
こんな時はむしろマイクプリのゲインを上げたほうがノイズをコントロールしやすく、DRIVEの値は2程度にしおいて、プリアンプセクションのゲインを上げていき、GRメーターが2,3個点灯する程度に調整するほうが確実にノイズが小さくなります
ちなみにここでのノイズというのはマイクや286sのセルフノイズではなく、過度な増幅による環境的なノイズが耳につくことを意味します

入力ソースがマイクではなく、ラインであればDRIVEをもっと上げてもいけそうですが、そこは接続する機材次第なので、耳で確認しながら良いところを探すしかありません
ただ、いずれにしても、「自動でメイクアップゲインがついてくる」のでリミターのような使い方はできません

DENSITYのほうもやや注意が必要です
DRIVEとの兼ね合わせな話になるのですが、説明書によれば「DENSITYをセンターより右に上げたときベース音がひずむ場合がある」とされています
音量的にはクリップしていないのにひずむという現象で、対処としては、DENSITYやDRIVE、GAINを下げるということになりますが、これも入力ソースによってさまざまなので一概にこれ!!って対処はありません

さていろいろ書きましたけど(私の)結論です
 ・コンプのDRIVEは最小限に!!
 ・DENSITYは12時が基本!!
 ・上記設定ではGRメーターがつかない、または1個くらいしかつかなくても許容w
 ・ソースによっては潔くコンプの使用をあきらめる
 ・コンプ調整時は必ず「エキスパンダー/ゲート」を無効にしておくこと!


ディエッサー
日本語の発音ではあまり目立たないとされる「歯擦音(しさつおん)」
いわゆるサ行の発音で耳障りな風切り音を軽減する機能です
私の場合はオフで使ってるので、このセクションは一応無罪としておきます(笑)


エンハンサー
EQと同じと考えられている方も多いと思いますが、似て非なるものです
LF DETAILは低音域にハリとキレと迫力を、HF DETAILは高音域に透明感、明良感を与えるもので、聴感上はEQと似た働きをしますが、286sの内部ではEQよりも複雑な処理をしています
基本的によく効きますが、過剰にかけるとあからさまに音が不自然となります
なんだか中身は詰まっていないのにパンパンに膨らんだ風船のようとでもいえばいいのでしょうか、そんな感じ
もちろんソースにもよりますがせいぜい3~5が最大値かなと感じます



エキスパンダー/ゲート
コンプレッサーに次ぐ「曲者」ww
しかしこれは286sがどうこうということではなく、エキスパンダー/ゲートがそもそもそういうものなのですが・・・
さて、ノイズゲートって聞いたことがあるけど、「エキスパンダー/ゲート」って何??
まあこれ私も詳しくはないですがww
 ・ノイズゲート:一定音量以下の信号をカットする
 ・エキスパンダー/ゲート:一定音量以下の信号を設定した比率で減衰させる
とでも思っておきましょう
要は生活環境ノイズ(家電やPC、屋外の雑踏音等)のような比較的音量は小さいがマイクで拾うと結構耳障りな雑音を軽減してくれる機能です
「一定音量」を決めるのがTHRESHOLD、「減衰比率」を決めるのが「RATIO」となり、うまく設定すると、生活ノイズを完全にカット、または気にならないレベルまで落とすことが可能です

可能なのですが・・・・
弾き語りのシチュエーションで言えば、ギターやボーカルの音が入らないときはいいのですが、弾き語りを始めてその音量がTHRESHOLDの設定値を超えると、減衰またはカットした生活ノイズも復活してしまうことには注意が必要です
もちろん286sが不出来なわけではなく、ゲートの仕様なわけですが、生活ノイズが復活した瞬間にボーカルがざらつく感じが強く出ます
結局、音量がTHRESHOLDを超えたときの「ノイズ復活ショック」が気にならない程度に調整をするしかないのですが、基本的にはTHRESHOLDもRATIOも最小から少しづつ上げていいところを探す形になります

ところが、ここでもコンプレッサーの調整次第では、上記のようなエキスパンダー/ゲート調整がうまくいかない可能性があります
すなわち、コンプの自動メイクアップゲインで生活ノイズも過度に増幅されてしまっている場合です
コンプレッサーの調整時にはエキスパンダー/ゲートを無効にしたうえで、「ノイズ最小かつ必要音量を確保」を目標とし、その後エキスパンダー/ゲートを調整という手順が適切と(私は)思いますw

アウトプット
最終的な出力音量を決定するセクションで、これについては特に問題はありません
ただ、ここで最終的な音量を決められるなら、コンプレッサーの「メイクアップゲイン自動付加」はいらんのになあと、余計なことしてくれちゃって・・と思うのは私の無知ゆえでしょうか(^_^;)


まとめ
多機能で安価なdbx 286sですが、生活(環境)ノイズを伴う使用条件下ではいろいろと注意も必要です
各セクションの役割が独立せず、相互に関連しあう部分があることが問題の切り分けを難しくする面もありますが、私には過剰なメイクアップゲインが罪深いと思えてなりません
多少極端な話になりますが、286sの最も無難な使い方としては
 ①とりあえずコンプ、ゲートはあきらめる
 ②エンハンサーは好みで少量付加する
を基本ラインとしてゲインとアウトプットレベルを決定し、使用してる中で何か不満が生じれば、コンプやゲートを少しずつ付加していくのが良いと思います

録音スタジオのような環境であればもっと大胆な使い方もできると思いますが、宅録環境ではチャンネルストリップとしてフル活用を考えるよりも、マイクプリと割り切ったほうが幸せになれそうな気がします

以上、完全な私見でございます(笑)